[会 員 だ よ り]
閑話延々 弁理士生活を始めて思うこと
今岡 憲(無名会)
日弁の会報委員という役目を仰せ付かってから暫く経った或る日、副委員長のI先生からお電話を頂いた。
「会員の声を書いてくれる人が見つからないんですよね。やってくれませんか?」。
あらま、悪い予感が当たってしまった。弁理士会の諸先輩方はお忙しいであろうし、こちらに御鉢が回って来るかな、と薄々は思っていたのである。
しかし、私としても何を書いて良いのか直ぐには思い付かない。何しろ平成10年に資格を得て間もない身の上、弁理士の将来像などを語ろうものなら、ひんしゅく物であろうし、語るべき中身も無い。友人に送る電子メールならば、駄文・雑文を何ページでも延々と書けるけれども、纏まった文章を書くのは何より苦手。まして会報への投稿文となると何を書いても弁理士の品位を害したと言われそうで如何ともし難い。
そこでI先生には、一応、私の方でも投稿希望者を探しますからと返事をしたものの(そんな希望者がいたら苦労はしない!)、結局、自分で原稿を書くことになった次第である。しかし、別の面から考えると、弁理士になってから少し落ちついた現在、日々想うことを思いつくまま書き綴っておくことも面白いのではないかとも思う。表題の「閑話延々」とは、文字通り無駄話が延々と続きますよということである。
□抱負と現実について
受験生のときには弁理士試験というのは不思議なものだと思った。とにかく各教科をまんべんなく勉強しなければならない。例えばある判例に興味を持っても深入りし過ぎてはダメ。好奇心が強いことは受験生にとって要領の悪さに繋がる。「興味があるなら合格してから調べなさい。」と人からは言われ、もっともと思いながらも違和感を感じていた。
合格をしてからは、人並に、あれこれと計画を立てた。「弁理士は資格を得てからが本当の勝負、明細書の書き方を覚えるのは当然として、判例の勉強もして、技術と語学を学んで、それから…」などと身の程を超えた大風呂敷を広げた結果、1年間で挫折した。判例ガイドブックは購入したが、今も埃を被ったままである。
□判例研究会について
私は、現在無名会の特許法判例研究会に参加している。一人では到底続かないと判ったからである。
この研究会は、2ヵ月に一度、偶数月の第1水曜日に弁理士会館で行われている。出席者が当番制でテーマとなる判例を決め、判決と明細書を読んで出席者全員で問題点を討論するという形式である。
私が研究会に出席するきっかけとなったのは、無名会の集まりで或る大先輩から「明細書を書くなら判例を勉強しなけりゃ駄目だよ。」といって頂いたことである。
私の事前のイメージでは、新米弁理士には殆ど発言の機会が無く、只ひたすらに先輩方の話を謹聴するだけなのかとも思っていたが、そのような雰囲気は全く無い。日頃疑問に思うことについてはどんどん発言することができ、それに対して回りの諸先輩から直ぐに反応があるので、自分勝手な解釈をしていた点や理解が曖昧だった点が直ちに明らかになって大変参考になった。
又、判例の検討を通じて、明細書の書き方についても、様々な考え方があると判ったのも大きな収穫だった。私の様に明細書の作成について経験の浅い者にとっては、現在所属する事務所で教わることが全てとなり易い。他の分野で活躍されている方から、その点についてはこんなやり方もある、或いは、顧客からこの様な要求をされることが多い、といった体験談を教えて頂くうちに自分の視野が広がったような気がする。
今後、弁理士間の競争が激しくなるなどという話を聴くにつれ、この判例研究会だけは出席し続けようと思う次第である。
□インターネットの弁理士サイトについて
最近、インターネットで、面白い弁理士(及び受験生)専用のサイトを見つけた。朝夕2回はコンタクトをしないと気が済まないので、かなり凝っている方であろう。目当ては、受験生間の情報交換を目的とした掲示番で、条文や勉強方法についての疑問はもちろん、特許業界の事情、弁理士制度改正などについて様々な意見や情報が飛び交っており、情報に疎い私にとっては参考になることばかりである。
今、最も注目されているのは、やはり、平成14年に予定されている選択科目の統廃合その他の改正である。受験生の負担軽減を目的とするものとはいえ、これ程の大改正ともなれば受験生諸氏が不安を感じるのも当然のことと思える。
又、合格者の定員増大に対してどのように備えるのか、という所見も数多く掲載されている。即ち、弁理士が増員されれば、各人がセールス・ポイントを確保しようということである。そのセールス・ポイントとは、企業での開発部門にいた経験であったり、博士などの学歴の取得であったり、民事訴訟法などの法律知識や語学力の習得であったり、と人様々なのである。
こういった意見をみていると、自分もうかうかしては居れないと思う反面、何とも心地よい緊張感も感じるのである。もちろん、特許事務所間の競争が激化することは苦しいことには違いないが、自分の技能を磨くチャンスを与えられたと思えば、幸福なこととはいえないだろうか。