[ ご 挨 拶 ]
巻 頭 言
日弁幹事長 佐 藤 辰 彦
平成12年度は念願の新弁理士法が成立し、来る21世紀を新弁理士制度の下でスタートする大きな節目の年となっております。振り返ってみますと、ここ数年前までは弁理士法の全面改正は悲願であっても実現性が疑問視され、ここ数十年の長きにわたる弁理士法改正の活動も空転の状況にありました。20世紀中に実現すると考えていた弁理士は皆無といってよいほどであったといっても過言ではないと思います。そのような状況を一変させたのは、知的財産権の社会的重要性への認識の進展と規制緩和の大きな流れであり、知的財産権の職業専門家としての弁理士の社会的役割の再評価が行われ、弁護士を含む法曹集団における弁理士のあり方の再検討の必要性が明確になったことによると思われます。
このような社会環境の大きな変化をなくしては弁理士法の全面改正はあり得なかったと思われますが、このような環境の変化を素早く察知して、特許庁と共に新しい弁理士制度を構築するため、日夜精力的に仕事を犠牲にしながら努力された理事会、委員会、弁政連等に関与した多くの会員の貢献なくしては到底実現しなかったことを忘れてはならない、と強く思うところであります。平成11年度の理事会の活動だけを振り返っても、弁理士制度100周年記念行事があったこともありますが、理事会開催数72回と極めて多忙で精力的に弁理士法改正にむかってひたすら邁進したことを伺うことができます。理事会はさらにその法改正関連の一部の活動をみただけでも、特許庁等との会合23回、日弁連等の他の士業団体との会合12回、政界関連会合43回、司法改革審議会等の会合8回、弁理士法改正説明会24回等、会内外への多くの折衝を行っております。また、これを支えるべく弁理士法改正特別委員会の56回の審議検討作業、弁政連の理事会と連携した政界への折衝活動、会のコンセンサス形成のために日弁での例会・政策委員会の27回の審議検討、各会派での審議検討という多くの会員の多大な時間と労力の成果であることは間違いのない事実であります。これは記録に現れたものの一部であり、記録に現れない会合や検討も多数あったことは間違いありません。
このように理事会を中心として多くの組織や会員が一丸となって弁理士法改正を実現したことに大きな誇りを覚えます。それはこのように自らの制度を自らの手で改革することに情熱を燃やし、自己犠牲の上に活動する多くの会員がいるということであります。これは弁理士会の良き伝統であり、多くの先輩の先生方が後進に範を示し後進を育成してきたおかげであると考えます。日夜業務に追われる弁理士の仕事の中にあって業務と会務を両立させることは負担の大きなことであることは誰しもが痛感するところであります。しかし、日頃、各クラブでの研修や交流の中で弁理士制度のあり方や業務のあり方などを議論する中で自然に育まれてきたものが、これを支えているように思われます。弁理士登録時の弁理士の業界について全く無知の頃が思い出されます。クラブの会合で先輩たちの話しを分からないながらも聞くうちに多くのことを学んできたように思われます。
日弁は50年以上の歴史と良き伝統があり、多くの人材を弁理士会や関連団体の役員に輩出してきました。日弁の活動なくして弁理士会の活動はなかった、と思うほどの自負してもよいと思います。また、日弁所属の5つのクラブにはそれぞれの個性と文化があり、各クラブ内で互いに研修と親睦を図り、日弁という交流の場を通じて互いに切磋琢磨してさらに発展してきました。日弁の会報を見ると分かるように、多くの会員が日弁の委員会や会合に参加し、弁理士会のみならず知的財産権制度の発展のために努力されています。また、その中で形成されて行く政策は2,000名以上の会員の声の集大成であり、重く大きなものでもあります。弁理士会を支える日弁の政策集団としての役割は大きなものがあり、また、それだけの重い責任があると思います。
日弁の会員は各クラブに所属すると自動的に日弁の会員となるため、日弁の活動に参加しない限り、日弁の会員である自覚が持ちにくい構造となっています。しかし、5つのクラブの交流の場である点でこれに参加することにより、各クラブだけでは経験できない多くのものを得ることができるところであります。その意味でも、今後多くの会員が日弁の場に係わることにより日弁の価値を知ってもらう努力をしなければならないと思っております。また、日弁は5つのクラブがあるからこそ、多種多様な声を反映できるのであって、これがバラバラでは日弁の存在価値がないものとなってしまいます。会員数が増加するなか、より一層の5つのクラブの連携強化が必要であると考えております。新弁理士制度のスタートにあたり、日弁のあり方も新たに問うべき時期に来ていると思われます。良き伝統を踏まえながら新しい時代に即応する組織としてますます活性化するように努力して参る所存ですので、よろしくお願いいたします。