会報第24号・世の中の役に立つということ

[ ご 挨 拶 ]

世の中の役に立つということ

知的財産支援センター 副センター長 牛 久 健 司

二者択一

A.弁理士という資格はあってもよいが,特許出願等の代理,知的財産に関する鑑定,契約等は誰もが業として行うことができるようにすべきである。自由競争を阻害するあらゆる規制を撤廃すべきである。劣悪な仕事をする人もいれば,非常に優れた仕事をしてくれる人もいるだろう。競争による淘汰にまかせればよい。優秀な人だけ残るだろう。ユーザは自らの責任で代理人を選べばよい。弁理士会という組織はあっても,なくてもよい。

B.やっぱり,充分な知識を持ち研修を積んだ専門家としての弁理士に特許出願等の代理,知的財産に関する鑑定,契約等をやってもらった方が安心である。弁理士にしか依頼できないので窮屈ではあるが,そして相当の費用もかかるが,きちんとした仕事をやってもらえば結果的には安上りである。何よりも職業人としての社会的責任をわきまえ,相談会,講演会等の活動もしてくれるので社会全体にとって有益である。弁理士会は全弁理士の指導監督の役割を担うべきである。

 数年後か10年先か分らないが,日本国民はAかBかの選択をするときがくるかも知れない(AかBかの選択をする政治的判断がなされるときがくるかも知れない,と言った方が正確であろう)。

最前線かつ最後の砦

 B.が選択される情況をつくっておくためには,今,何をしておくべきか。個々の弁理士が自己の業務を誠実に実行し,社会的信頼を築き上げておくこと,弁政連が政治的な活動を積み上げておくことなどはもとより大切なことではあるが,弁理士会として実践しておくべき最重要事項は次の3点であると私は思う。

1.研修を充実させ,会員の業務遂行上の質を高めること(研修所の事業)

2.知的財産制度の普及,啓蒙活動,権利の取得,活用についての支援などの社会的活動を行うこと(支援センターの事業)

3.会員に対する指導,監督の徹底,違反者に対する厳正な処罰ができる体制の確立(弁理士会の機能的な自治組織の構築と理事会の指導力)

 この3点に総力を集中して数年間を乗切っていく,そして日本という国の社会には弁理士の存在が不可欠であるという認識を一般化しておく必要があると思う。

 支援センターは弁理士会が社会に向う最前線に位置付けられるものであり,支援センターが崩れたら弁理士会もそれと運命を共にするという意味で最後の砦でもある。

役に立つ能力

 支援センターが発足してまだ1年半余りであるが,社会からの支援員の出動要請は増大している。相談員,アドバイザー,講師の派遣依頼が主であるが,依頼元は多岐にわたっている。各種の発明振興団体,中小企業支援団体,商工会議所,学校関係,都道府県,特許庁等である。

 発明相談,特許相談等は日常業務と同質のものであるから特別に構える必要性は薄い。しかしながら,高度の専門性を要求されるものもある。たとえばソフトウェア関係,バイオ関係などである。また,大学関係であれば,大学における発明の取扱い,TLO との関係,技術移転のあり方,国有特許のライセンス等,特別の知識を備える必要がある。工業高校等であれば生徒との接し方,学校環境の感覚等の日常業務とは離れた側面における適性が要求される。

 弁理士の通常の業務遂行上必要な能力,適性以上のものが社会から要求されている。そのために支援センターでは支援員研修会を今年から開始している。

 支援センターが企画して開く催しも増大している。昨年は弁理士の日における全国一斉相談会と全国的な講演会であったが,今年は弁理士の日記念のセミナー(ビジネスモデル特許)を開催した。このセミナーはきわめて好評で,まことに時機を得たものであった。

 支援センターの活動は社会の役に立たなければ意味がない。支援員は役に立つ知識,能力,適性を備えている必要があり,その中には,弁理士の日常業務とはかけ離れたものもある。我々の活動は新たな領域に踏込んでいるといえる。

運営委員に要求される能力

 支援センターの事業は多岐にわたっている。総務的な仕事,出願等援助制度の運用,助成制度の調査と整理等のやや地道な活動が一方にある。他方では,社会とのかかわりあいの中で行う上述した支援員の派遣,相談会,講演会,セミナー等の開催,これを支える支援員の選任,支援員の研修会の開催等がある。特に後者の事業に関して,支援センターの運営委員に要求される能力は次の2点である。

(1) 企画力と実行力

(2) 多くの会員を知っており,かつ人を正しく評価できる能力

 社会のニーズに合致しかつ時機に適した企画(相談会,講演会,セミナー等の開催,各種団体と連携,新たな団体との接触,支援センター全体の運営等)を立案し,実行に移す意味で上記(1)の能力が重要である。

 支援センターが派遣する支援員には上述したようにさまざまな能力,適性が要求される。四千強の会員の中から支援要請団体の希望に沿った能力と適性を持つ適切な会員を選ばなければならない。もし支援員の能力と適性の選択を間違えると,かえって迷惑になる。支援センターでは支援要請団体と綿密な打合せをして相手のニーズを把握し,昨年8月にとったアンケート結果に基づいて,数人で相談しながら支援員の候補者を選び,選んだ候補者に支援内容を詳しく説明して理解していただいた上で,最終的に支援員として委嘱している。支援センターの事業の成否はいかに適切な支援員を選ぶかにかかっているといっても過言ではない。上記(2)の能力を持つ運営委員が是非必要な理由である。

 多くの会員を知っており,かつ人の能力と適性を正しく評価して人選ができること,これが弁理士会がその社会的責任を果たすきわめて重要な要素なのである。

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