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2005年06月16日

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研修会レジュメ 「準備書面における主張立証のポイント」

研修会レジュメ 「準備書面における主張立証のポイント」

審決取り消し訴訟への対応 ――元調査官のアドバイス――
05/06/10
岡部 譲    V4
1.知的財産高等裁判所
(1)体制
4課部 裁判官18人
1部(旧第3民事部)  篠原裁判長:青柳 :宍戸:早田裁判官(兼)
2部(旧第13民事部) 中野裁判長:岡本:大鷹:上田:早田裁判官
3部(旧第6民事部)  佐藤裁判長:三村:若林:古閑:沖中裁判官
4部(旧第18民事部) 塚原裁判長:塩月:田中:高野:佐藤裁判官
注:知財1部:北山裁判長は転出。
知財1部:清水裁判官は地裁29部長に転出。
知財3部:設楽裁判官は地裁46部長に転出。
知財2部:古城裁判官は退官。
第6特別部(知的財産大合議事件)
高裁調査官室――調査官11名,事務官1名
(2)過去の体制
平成11年3課部10人
平成14年4課部16人
2.処理件数等
(1)侵害訴訟等控訴事件
平成15年116件
特許36% 著作権22% 不競法18% 商標13%実案8% 意匠3%
(2)審決取消訴訟
平成15年551件
特許77% 商標16% 実案4% 意匠3%
(3)審決取消率
約30%
(4)審理期間
平成9年  審決取消訴訟18.6月  控訴事件18.5月
平成15年 審決取消訴訟12.4月  控訴事件10.4月
3.裁判所調査官
(1)昭和24年裁判所法57条に基づき東京高裁に設置
昭和41年東京地裁3名
昭和43年大阪地裁1名
現在 東京高裁11名(内弁理士1名)
東京地裁7名(内弁理士1名)
大阪地裁3名
(2)裁判所法57条(裁判所調査官)
1項 最高裁判所,各高等裁判所,各地方裁判所に裁判所調査官をおく。
2項 裁判所調査官は,裁判官の命を受けて,事件(地方裁判所においては,工業所有権または租税に関する事件に限る)の審理及び裁判に関して必要な調査を掌る。
(改正:工業所有権→知的財産,必要な調査→必要な調査その他他の法律において定める事務をつかさどる。)

専門委員:民事訴訟法92条の2~7
調査官:民事訴訟法92条の8~9
「裁判所は,必要があると認めるときは,高等裁判所又は地方裁判所において知的財産に関する事件の審理及び裁判に関して調査を行う裁判所調査官に,当該事件において次に掲げる事務を行うことができる。」
「裁判官に対し,事件につき意見を述べること」(92条の8第4号)
(3)交流採用
民間企業の人材の採用(交流採用)は、民間企業の人材を常勤国家公務員として公務に従事させるもの(任期は原則3年以内)。
4.審理の流れ
(1)通常の流れ
1.訴状提出
相手側は答弁書提出
2.配点される部及び主任裁判官決定
3.担当調査官決定
主任裁判官,調査官のスケジュールにあわせて第1回準備手続期日決定。
(注)弁論準備手続き:裁判所は,争点及び証拠の整理を行うため必要があるときは,当事者の意見を聴いて,事件を弁論準備手続きに付することができる(民訴178)
当事者は,口頭弁論において,弁論準備手続きの結果を陳述しなければならない(民訴173)
4.第1回弁論準備手続き期日を指定
原告は第1回期日前10日程度には第1回準備書面を提出。
5.第1回期日
午前中,調査官は主任裁判官に技術説明。
午後,調査官同席の上,手続き。準備書面に問題がなければ第2回期日を決めるだけで手続きはすぐに終了する。
6.第2回期日
被告第1回準備書面提出。期日当日に裁判官・調査官打ち合わせ。争点整理,不明点等を検討。次回を最終期日として良いかどうかを判断。
7.第3回期日
原告第2回準備書面(必要に応じて被告第2回準備書面)提出。
弁論準備手続きを終結する。「次回期日(口頭弁論期日)は追って指定」とする,仮終結方式とすることもある。
8.口頭弁論期日
9.判決言い渡し
(2)集中審理方式
●1,2,3部方式
第1回期日を審理計画打ち合わせ日とし,第2回期日を集中審理日とする。
第1回期日では原告の取消事由を確認,第2回期日までに双方は主張・立証を尽くす。第2回期日は双方の主張が尽きたことを確認(必要に応じ技術説明等を行うことがある)し,準備手続きを終結する。
●4部方式
書記官の指示により,双方の主張・立証のスケジュールが決められ,全ての主張が尽きたところで第1回かつ最終の準備手続きを行う。必要に応じて技術説明・争点説明等がなされる。
(3)計画審理の導入(H16,10,1より)
第1回期日において判決言い渡し日の大まかな目安を当事者に伝え,後の審理スケジュールを設定する。
事案に応じて集中審理期日には主張の要約書の提出を求める。
調査官と相談の上,弁論準備終結期日において判決言い渡し予定日(3ヶ月後程度を予定)を当事者に告知する。

5.審決取消事由と原告の主張・立証
[1]審決の論理構造
1.本件発明(出願発明または特許発明)の認定
2.引用発明(単数又は複数)の認定
3.本件発明と引用発明1(主引用発明)との一致点及び相違点(単数または複数)の認定
4.相違点についての容易想到性の判断
5.作用効果についての検討
6.結論
[2]審決取消事由
●審決の認否は明確に
審決のどの部分を争うのかを明確に特定する必要がある。
●審決の結論に影響を与える取消事由でなければならない。
審決中の明白な誤記や適用条文の誤り等は審決の結論に影響を与えない。
審決の結論が誤りであることを立証する必要はない。結論が正しくない可能性があることを立証すればよい。
●審決の論理構成(結論を導く課程)に従った立証をする。
自らの見解に基づいて進歩性を肯定する論理を構築したり,審査段階での審査官の立場と対比したりしても意味はない。
「発明は一体として技術思想として把握すべきものだから,引用例と対比して相違点を細切れに細分化するような手法は誤りである」等の主張も無駄である。
●取消事由の類型
1.本件発明の認定の誤り
2.引用発明1(主引例)の認定の誤り
3.引用発明2~m(従引例)の認定の誤り
4.本件発明と引用発明1の一致点の認定の誤り(一致点の誤認・一致点の看過)
5.本件発明と引用発明1の相違点の認定の誤り(相違点の誤認・相違点の看過)
6.相違点についての判断の誤り
7.顕著な作用効果の看過
●各取消事由について
(1)本件発明の認定の誤り
クレームに記載された技術的事項の特定の問題である。
*リパーゼ事件(最高裁平成3年3月8日第2小法廷)
「特許法二九条一項及び二項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては、この発明を同条一項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、この要旨認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。」
*本件発明の認定の誤りは通常は一致点の認定の誤り・相違点の看過につながるから審決取消事由となる。相違点が正しく認定されていれば審決の結論に誤りはない。
(2)引用発明1の認定の誤り
引用発明1の認定の誤りは通常,一致点・相違点の認定の誤りにつながる。
本来一致点であるものを相違点とする。他にもある一致点を看過する。
(3)引用発明2~mの認定の誤り
引用発明2~mの認定の誤りは,「相違点の判断の誤り」と結びついて取消事由となる。
(4)一致点の認定の誤り
*一致点とされた事項が実は一致点ではなかった=相違点の看過=取消事由
*発明の捉え方の抽象度に応じて一致点の捉え方は変わる。
(例,「犬と猫は違う」は正しいし,「犬と猫は動物として一致するが犬と猫として違う」も正しい)
*一致点とすべき事項を誤って相違点とした→後述
*一致点とすべき事項を相違点としなかった→一致点の一部が欠落しているだけ。相違点の認定に誤りがない限り取消事由とならない
(5)相違点の認定の誤り
*相違点を看過した→相違点に対する判断がなされずにされた審決だから違法である。
*一致点を相違点と認定した→誤った相違点(本来は一致点)について新規性・進歩性を認めていれば審決は違法となる。
*相違点の技術的内容の認定を誤った→真の相違点について判断されていないから違法。
(6)相違点の判断の誤り
*想像上の人物である当業者の知識経験(=周知事項)と判断能力を想定して相違点の克服が容易であったか否かを判断する。周知事項の認定の誤りは取消事由となる。
*本件発明と引用発明の課題の違いは問題とならない。引用発明の開示する構成を本件発明の構成に改変することに特許付与に値する困難性が認められるか否かが問題となる。
(7)顕著な作用効果の看過
*公知の発明についての単なる効果の発見→特許性無し
*構成は容易に想到できるものであってもその構成からは通常予測困難な優れた効果→特許性あり(化学の分野でまれに認められる)。
*「顕著な作用効果」を主張するのであれば相違点から通常予測される効果と本件発明の発揮する効果との対比を論ずるべき。
6.弁理士へのアドバイス
●職権探知と弁論主義
審判は真実を探求するところだが,審決取消訴訟は違う。争点について両者の主張の正しい方に軍配を上げるのが仕事である。よい証拠を挙げれば審判では適切な理屈をつけて採用してくれるが,裁判は違う。裁判所が何かを補ったり,真理を見つけてくれることを期待するかのような主張は誤りである。
●クレームに基づかない主張(要旨外の主張)
明細書を離れ,クレームだけを,客観的に読んでみることが重要(リパーゼ判決)。
語義は日本語の通常の意味で解釈(「広辞苑」)し,語義が不明瞭なら明細書を参酌する。ある言葉を特定の意味で使うなら明細書にその旨定義する。
原告と被告(特許庁)の発明の要旨認定がずれているケースが多い。
「裁判所は技術をわかっていない」との誤解のもとになっていると思われる。
●当初明細書の重要性
当初明細書の開示が不十分であるケースが大半である。
●技術的な理解不足
財産権を創造するプロとしての自覚。
●商業的成功,課題の新規性等の主張
●外国からの出願
翻訳の問題,法制の相違,連絡の困難
●特許庁段階での決着をはかる
審決は強固で滅多なことでは勝てない。出訴が予想される事件は特に審決は入念である。
[参考資料等]
1.「審決(決定)取消事由」(旧第6民事部長山下和明)
「特許審決取消訴訟の実務と法理」竹田稔・永井紀昭
2.「審決取消訴訟粗放の新たな審理方式と新たな判決様式について」(塩月判事      他)NBL769
3.「審決取消訴訟について」(特許庁豊岡主席審判長) 特技懇No.234
4.「知的財産権関係訴訟における裁判所調査官の役割」(高林龍)
以上
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