会報第24号・弁理士会の新しい会則

[ ご 挨 拶 ]

弁理士会の新しい会則

弁理士会副会長 増 田 竹 夫

 去る8月3日の木曜日午後7時から翌4日の金曜日午後6時まで、虎ノ門の或るホテルに監禁された。3日は午前零時(正確には4日午前零時)を過ぎても寝させてもらえず、狭い畳の部屋から一歩も外に出ることができなかった。翌日は朝の9時から会議室に閉じ込められた。縄で縛られ、拷問を受けることはなかったが、A4サイズで52頁にも及ぶ書類を強制的に読ませられた。会則五次案である。監禁されたもう一人の副会長は、渡部温氏である。監禁する側のボスは、中島令規改正特別委員会委員長である。この委員長の下に馳せ参じたのは、当該委員会委員の須賀、伊藤、斎藤の各先生方並びに会の法改正対策室から佐藤、長島両君であった。村木会長も夜の7時から翌朝7時半までは、“陣中見舞”で自発的に“監禁され”にみえられた。4日の朝からは、小山副会長も参加された。

 「議決」と「決議」の違いとか、「令規」は現代では「例規」というとか、「作成」と「作製」の使い分けや、「公告」と「公示」の相違、「事務」は「事業」に含まれる(?)等々、会則作成作業に際しては、まことに七面倒なことが多い。

 弁理士法(以下「法」という)62条は、「会員は、弁理士会の会則を守らなければならない。」と規定し、法32条本文では、「弁理士がこの法律(当然に法62条を含む)・・・・に違反したときは、経済産業大臣は、次に掲げる処分をすることができる。」として、3つの懲戒処分(1号~3号)を掲げている。そして、法33条は、「何人」も大臣に弁理士の違法行為を報告し、適当な措置をとれ、と請求できるようになっている。このことは、会則も法62条で弁理士法にとりこまれているので、会則違反も法32条で規定する大臣の懲戒処分の対象になり、何人も大臣に会則違反をした弁理士の処分を請求できる、ということでもある。

 一方、弁理士会の懲戒処分については、会則五次案によれば、「会長は、会員が法若しくは法に基づく命令又は会則に違反した場合において、①本会の秩序又は信用を害したとき、②又はその他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があったときは、当該会員を処分することができる。」と規定し、法の懲戒よりも適用条件を厳しく(会員に対しては緩く)してある。しかしながら、法33条の「何人」も上記①、②の条件無しに弁理士の「会則違反」を大臣に対し「処分しろ」、と言えることになる。そして、特許庁側では、「弁理士倫理」についてきちんと会則に規定しなさい、と弁理士会に対し強い要請をしてきている。

 例えば、現行の「弁理士倫理」(総会決議)7条前段と現行会則27条4号の規定を結合させ、新会則に規定しようとすると次のようになる。すなわち、「弁理士(A)は、法75条の規定に違反し又は違反するおそれがある行為をする者(甲)の代理人又は役員になったりして甲の便宜を図ってはならない。」となる。そして、ある会社(親会社乙)の知的財産権部が分社し、この親会社(乙)とは別法人の所謂知財分社(子会社甲)が設立されたとき、この甲会社に弁理士Aが勤めたとする。乙会社は甲会社に特許出願依頼をする。依頼された甲会社は、そのための書類作成を甲会社の従業員にさせている。このとき、法75条をこのケースにあてはめて読むと、「甲(弁理士ではない)は、他人(法人格を異にする乙)の求めに応じ報酬を得て、政令で定める書類(例えば明細書)の作成を業として行った。」場合に該当するか、あるいは甲は「法75条違反のおそれある者」に該当し、甲に勤務し乙の代理人となっているAは、甲の代理人ではないが、甲の便宜を図った者とされてしまう。また、Aが乙ではなく甲自身の出願代理をしたとき、「法違反のおそれある者(甲)の代理人」となるかというと、この場合は甲の「本人行為」であって、甲自身が「法違反のおそれある者」に該当することはない。

 会社勤務弁理士は、使用者以外の者の特許事務に関与できないことを原則とし、例外として使用者の事業に関係ある者の特許事務は取り扱える、としたとき(現行会則21条)、上述したような知財分社甲に勤務する弁理士は、常に会則違反の(あるいはおそれある)状態におかれることになる。そして、会則違反は大臣の「懲戒対象」となる(法62条、法32条~36条)。上述したような会則条項を残し、あるいは厳しく規定し直し、現実のダイナミックな企業活動を規制し、制限することになりかねない弁理士会の会員監督権限を発動(勤務弁理士の懲戒)できるようにしておくことや、勤務弁理士の日常業務が大臣の懲戒対象ともなりうる余地を残しておくことは、会則作成作業上、果たして正しい選択であろうか。国民とかユーザーにとって、今後使いやすい制度とすることが、独占業務を認めた弁理士の制度を残す条件であり、制度存続の最大の理由でもあろう。なお、上記甲会社の従業員が書類作成などをしても、弁理士Aの監督下で行うことは、従業員の行為はAの行為と等しく、いわば従業員はAの手足と考えれば、甲は法違反者でも違反のおそれある者でもない、と言えるのか。

 勤務弁理士の行為をすべて「本人(勤務会社や関連会社等のその弁理士によって代理されている者)行為」というならば、知財分社に勤務して親会社や自社の事業に関係ある会社の代理等をしたときも「本人行為」であり、それならば、そこに弁理士がいなくても、知財分社の行為は「本人行為」となり(知財分社による親会社の出願代理等が親会社本人の行為と考える)、「法人代理」も認めてしまうことにならないか。また、甲は、乙から、甲に勤務するAを代理人とした特許出願手数料等の報酬(金銭)を・・・・名目はどうであろうと・・・・受け取るであろう。報酬を受け取らなければ、知財分社たる甲会社は今後存続できず、倒産してしまうことは明らかである。それを、「甲乙間で金銭の授受はあるだろう」と言うことは、甲の非弁活動を認めることであり、甲に勤務する弁理士が懲戒に値する、と言えるのだろうか。

 勤務弁理士の問題は、弁理士の専権業務を為す実質的主体が会社にある点である。また、新弁理士法で認められた「特許業務法人」と「知財分社」とは、一方が庁に対する手続きが法人名で出来、他方が勤務弁理士名で出来て、実質は両法人とも弁理士の専権業務ができる(他方は会則上使用者の事業に関係ある者というしばりはある)。今後も、この問題は会員、特に会社に勤務する会員の先生方が、弁理士という職業をさらに魅力あるものにしたいと思うなら、もっともっと考える必要がある。

 会則はできるだけシンプルなほうがいい。必要にして最小限の規則でいいはずであるが、弁理士性悪説に立つと、あれもこれもと、あるいはこれでもかというくらいおせっかいな規定が増える。会則事項の変更は、総会で出席者の3分の2の賛成を得なければならず、その下の「会令」の変更は総会で2分の1の賛成、と会則五次案は規定する。法65条は、「総会決議事項」を規定し、この規定によれば、①会則の変更、②予算、③決算、の3つのみである。会令の変更も総会事項とする必要があるのだろうか。総会で委員会を設置する必要性、それに伴って総会設置の委員会の職務権限の変更等も総会を開いてわざわざやるべき事項であろうか。総会で決議した事項は、法66条により特許庁長官に報告する義務がある。いままで総会にかけていた事項を、この際きちんと見直し、なんでもかんでも総会決議事項として、権威付けする必要もないのではないのか。役員制度を今回見直しているので、役員にもっと多くの権限を与えて今までの総会で決めていた事項を決められるようにし、会務執行の迅速性を図ったほうがいいと思う。

 この原稿は、ホテル監禁の翌日の土曜日に書いたものであるため、会則の行方は、この委員会の主担当である私にもしかとはわかりません。いずれにしても、もう残された時間はわずかしかありません。会員の総意に従うとはいっても、仮に会員の大多数が利己的な観点からのみ反対されても会則を修正することはできません。どうか、日頃親しくご指導いただいております日弁の先生方には、寛容の精神で正副会長の活動をご理解、ご支援頂きたくお願い申し上げます。

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