会報第24号・常議員制度の改正に思う

[ ご 挨 拶 ]

常議員制度の改正に思う

常議員会議長 木 内 光 春

はじめに

 弁理士法が改正され、今年度はそれに伴う会則改正の作業が急務になっている。改正点はいろいろあるが、なかでも常議員会を含めた役員制度の改正については、種々の提案がなされている。

 この常議員制度の改正方向については、半年間常議員議長の職に就いてきた経験から、次に述べるように幾つかの感想を持っている。これらは、あくまでも、日弁の会員としての個人的な感想であり、常議員会議長としてあるいは常議員会の総意としての意見でないことを踏まえて、ここに開陳してみたいと思う。

1.監査機能と審議機能の分離

 現在の常議員会の職務である審議機能と監査機能を分離できないかという点である。すなわち、常議員会には、現会則第44条の2の第1項各号に規定された審議機能と、第44条の2の第2項に規定された監査機能とが与えられている。しかし、実際に常議員会を運営し、理事会と作業を進めていくと、この2つの側面故のとまどいを感じることがある。

 審議機能は、理事会の委託を受けて行うことからも明らかなように直接的に理事会の活動を支援するものであるのに対して、監査機能は理事会の行動の適否を一つ一つチェックするものである。広い意味では、両者とも弁理士会や会員の利益のために必要な機能であるが、具体的な内容では相反することが存在するのは認めざるを得ない。

 監査機能を捉えた場合、本来、常議員会の監査によるチェックがあるために、理事会としては、自己の行き過ぎや過失をおそれることなく、思う存分会務の執行を行うことができる筈であり、一方、常議員会の監査行為自体が理事会の会務執行の妨げとなってはいけない。しかし、監査という言葉の意味合いからすると、常議員会の監査機能は、理事会の行動にブレーキをかける方向に働くことは否めない。

 これに対して、理事会の提案する事項について、審議し議決する審議機能は、より直接的に理事会の運営を助けるものであり、特に、常議員会による議決事項は総会に次ぐ意志決定機関として、理事会にとって大きな力となる。

 このような常議員会の審議機能をより有効に機能させるためには、ブレーキ的な印象を持たれがちな監査機能と審議機能とを分離することが必要ではないかと考える。すなわち、現在の常議員会を、審議機能を行う組織と監査を行う組織とに分離して、各組織ごとに適切な定員を定めると共に、その役割を果たすに足る資質を備えた会員を別個の基準で選出することが、審議機能及び監査機能のそれぞれについて有効ではなかろうか。

2.監査の人数

 常議員会の監査機能に着目した場合に、現在の80名という定数では、人数が多くはないかという点である。監査を行う場合、会計監査の伝票や帳簿、会務監査の議事録など多くの書類を検討する必要があるが、このような作業を80名の常議員で行うことは到底不可能である。そのため、現実には、常議員会内部に40名の監査委員会を設け、更にその監査委員会を第1と第2のグループに分けて、隔月交代で監査の準備を行っている。

 現会則では、監査委員会は、監査それ自体を行うものではなく、監査のための準備を行う委員会として定められており、本来の監査は監査委員会の準備した資料に基づいて常議員会(年1回)が行うことになっている。しかし、このような監査方式では、監査委員以外の常議員は監査の実務に関与しているとは言い難い。常議員会に提出される決算書や会務報告書、あるいは監査準備報告だけでは、監査委員会で取り上げられた個々の質問事項や指摘事項について、監査委員以外の常議員が知ることはなかなか困難なことである。

 このような状況を改善するために、現会則内では、監査委員以外の常議員に各月の監査委員会の議事録を配布したり、監査に必要と判断される理事会の議事録や会計書類を常議員会の事前に配布することが一つの手法である。しかし、本来的には、各月の監査にすべての常議員が関与して、理事会との間で意志の疎通を行うことがより正確で効率的な監査のために必要と思われる。このことをからすると、監査を行うための人数としては、現状の各月の監査を担当している20名程度で十分ではないか。

 特に、公認会計士などの外部の専門家の参加を予定すれば、監査にたずさわる役員としては、より少ない10名程度でも実効性のある監査を実施できると思われる。また、監査にとって重要なことは、監査を行う人の資質であり、会計及び会務に精通した人を選任することにより、現在に比較するとより少ない人数であっても、適切な監査は可能であろう。

3.理事会への出席

 監査を行う場合に、現在の監査は、監査委員会による月次の書面監査がほとんどである。しかし、会計処理や会務執行状況を監査する場合に、どうしても書面ではその意がくみ取れないことが多い。理事会議事録に審議経過をすべて記載することは不可能であるから、議事録だけでは内容が不明で理事の説明を聞いて納得することも多々ある。

 弁理士会の監査を行う場合、監査の代表者は常に理事会に出席することができると、理事会との意志の疎通もより良くなると考える。この点については、現在の常議員のなかでも強く希望する人が多い。

 このことは、商法に規定された監査役が取締役会に出席することを認められていることからしても、検討の余地は十分ある。

4.監査のルール

 現会則では、監査の結果、会計処理や会務執行のどのようなものが違法性があるのか、違法性は認められなくとも不適切なものであるのかの判断基準が不明確なことがある。また、監査の結果と理事会の意見とが対立する場合には、どの様に処理すべきか、更には、違法性が認められた場合の処置についての基準も定められていない。理事会の認めた支出が不適当であった場合に理事には弁済義務があるのか、第三者に対して支払われた金品についてはどの様に処理するのかなど、具体的な事例についての指針がない。

 幸いなことに、現状では、会務運営や会計処理が適切に行われているが、将来、このような不測の事態が全く生じないとは言えない。また、監査に基準があることで、理事会としては、監査に対して自信を持って望むことも可能となり、必要以上に監査に配慮することもなくなるであろう。

終わりに

 このように、現状の常議員会制度を眺めた場合、幾つかの課題が存在することから、この点に配慮した新たな制度が発足されることを、心から願うものである。

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